高エネルギー加速器科学研究奨励会

褒賞 - 平成25年度選考結果

2014表彰式
平成26年2月17日に表彰式がアルカディア市ヶ谷にて開催されました。


平成26年2月28日付の科学新聞に掲載されました。pdf

西川賞

    

原田健太郎氏(高エネルギー加速器研究機構)
「電子蓄積リングにおけるパルス多極電磁石による新しい入射方式の開発」

    

諏訪賞

    

J-PARCニュートリノビームグループ 代表者 小林 隆氏(高エネルギー加速器研究機構)
「世界最高強度ニュートリノビーム施設の実現による電子ニュートリノ出現現象発見への貢献」

   

諏訪賞

    

大久保光一氏(三菱重工業株式会社)
「超伝導高周波空洞応用に関する加速器科学への開拓的貢献」


選考理由一覧

西川賞受賞者: 原田健太郎氏
研究題目「電子蓄積リングにおけるパルス多極電磁石による新しい入射方式の開発」
 
選考理由:
世界の先端的放射光施設では、放射光利用の高度化にともない、X線 のナノビーム化、高分解能化、環境安定化等を実現するために蓄積電 流値を一定に保つtop-up運転が必須となっている。この運転では、利 用を継続しつつ電子ビームを追加入射するため、入射過程で蓄積電子 ビームの軌道を変動させないことが不可欠となる。現状の複数のパルス 二極電磁石を用いるバンプ入射方式では、機器の種々の誤差を最小 化した状態での残留振動の大きさはビームサイズの数分の一程度で、 エミッタンスの更なる低減やtop-up入射の頻度の増加への対応は今後 の課題となっている。  原田健太郎氏は、磁場がゼロとなる磁場中心を持つ多極電磁石の特 徴を巧みに利用することで、このtop-up入射時の課題を原理的に解決 する独創的な入射方式を考案した。そして入射ビームの詳細な運動力 学的解析に基づいてパルス四極電磁石を用いた入射システムを開発・ 構築しPFリングでその実証実験に成功した。その後パルス六極電磁石 を用いたさらなる高性能入射方式の開発を推進し、現在PFのtop-up 入射で不可欠なシステムとして運用されている。原田氏が開発した方式 は、入射システムの単純さと電子ビームとのタイミング調整を一台のパル ス電磁石のみで可能とするシステム的性能の高さから、NSLS-Ⅱや MAX-Ⅳ等の最新鋭放射光施設やUVSOR等小型放射光施設で導入 が検討されるなど、理想的なtop-up入射に道を開く画期的な研究成果 として国際的にも高く評価されている。  以上、放射光リングにおける入射時の課題を、独創的なアイデア-と高 い研究遂行能力で開拓した原田健太郎氏を西川賞の適任者として 選 考した。  


諏訪賞受賞者: J-PARCニュートリノビームグループ 代表者 小林 隆氏(高エネルギー加速器研究機構)
研究題目「世界最高強度ニュートリノビーム施設の実現による電子ニュートリノ出現現象発見への貢献」
 
選考理由:
我が国は、2004年にK2K実験によるミューオンニュートリノ欠損の観測 に基づくニュートリノ振動の確認により、加速器で作られたニュートリノに よる長基線振動実験の先鞭をつけた。そしてさらに 高感度な測定が必 要となるミューオンニュートリノの電子ニュートリノへの転換現象を実証す るために、J-PARCの大強度を利用したT2K実験が計画された。三世代 のニュートリノ混合モデルにとって、この転換現象は、原子炉からの電子 ニュートリノの欠損現象とともに残された重要な課題であった。  2009年の実験開始後、J-PARC加速器が着実にそのビームパワー を増強していくに従い、T2K実験においても実験データを蓄積、2011 年世界に先駆けて転換現象の証拠となる電子ニュートリノの出現を観 測、さらに2013年にはその有意性を7.5σとして決定づけた。  これにより3世代のニュートリノの混合が最終的に確立し、さらに将来の ニュートリノCP非対称性の研究の可能性を大きく開いた。 T2K実験の成功においてとりわけ重要であるのは、反応断面積のき わ めて小さいニュートリノ現象の高感度測定を可能とする大強度ニュートリ ノビームであり、J-PARCからの300kWの大強度陽子ビームを標的に導 き、ニュートリノに変換して、それを約300km先の神岡にある SuperKamiokandeに向けて正確に輸送する、J-PARCニュートリノ施設 の果たした役割は極めて大きい。施設は世界最大級の強度を持つ陽子 ビームを神岡方向へ導く超伝導電磁石群によるビームトランスポートと 遷移輻射を利用したビームモニタをはじめとする制御システム、MW級 のビームにさらされるグラファイト標的とその冷却システム、2次粒子を効 率よく神岡方向へ収束するパルス駆動のホーン電磁石とその冷却シス テム、2次粒子の崩壊に よりニュートリノを生成するDecay Volume、ニュ ートリノ以外のすべての最終生成粒子を吸収するビームダンプ、そして ニュートリノビームの方向を維持するためのミューオンモニタまで、長年 の開発研究と緻密な設計、5年間の多難な建設の結実といえる。震災に よる休止を挟む5年間の大強度ビーム運転において、着実に増強が続 けられる陽子ビームをうけ、大きなトラブルなくニュートリノを 供給し続け たことは、この施設の設計と建設そしてその運転が、その性能ばかりで なく、健全性・安定性においてもいかに優れたものであったかを物語っ ている。  以上のように、本委員会は、J-PARCニュートリノビームグループがもた らした物理成果の高い意義は言うまでもなく、今後の大強度加速器ニュ ートリノビーム施設の基準を確立したという点でも大きな功績をあげたこ とを高く評価し、2013年度の諏訪賞の受賞にふさわしいものであると結 論する。 

 

熊谷賞候受賞者:大久保光一氏(三菱重工業株式会社)
研究題目「超伝導高周波空洞応用に関する加速器科学への開拓的貢献」
 
選考理由:
大久保光一氏はTRISTAN用超伝導空洞をはじめ、ILC用空洞、KEKB 用クラブ空洞など、超伝導高周波加速空洞の製造開発に、長年にわた り企業のエンジニアとして多大な貢献をした。特に、TRISTAN用空洞は、1988年世界に先駆けてエネルギーフロンティアをめざす高エネル ギー加速器に採用され、世界の超伝導高周波加速器技術をリードする 端緒になったものである。当時、大型の超伝導加速空洞の本格的運用 は未開拓の分野であり、氏が担当設計した大型クライオスタットにおいて は、製造開発のみならず、政府との直接交渉などを通じて、前例のない 特殊装置に対する高圧ガス取締法(現高圧ガス保安法)の認可に道を開いた功績は大きい。その後、超伝導加速空洞は我が国のKEKBや世 界中の高エネルギー加速器で採用されるようになったが、氏はKEKBの クラブ空洞、ILC用超伝導空洞、最近では、台湾放射光NSRRC用超伝 導空洞など、今日まで一貫して超伝導加速空洞の製造開発にたずさわ ってきた。このようにして製造された超伝導加速空洞は、高エネルギー 加速器の高度化に寄与し、開発された技術は新しい加速器プロジェクト にも採用されている。氏の長年の高エネルギー加速器への貢献は顕著 であり、正に本賞の授賞に値するものである。

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