高エネルギー加速器科学研究奨励会

褒賞 - 2022年度選考結果

2022表彰式
2023年3月1日にアルカディア市ヶ谷にて授与式を開催しました。

小柴賞

    

      瀧田 正人(東京大学宇宙線研究所 教授)
       「水チェレンコフミューオン検出器を応用した空気シャワー観測装置による
        サブPeVガンマ線天文学の開拓」

         

小柴賞

    

      亀島 敬(公益財団法人高輝度光科学研究センター XFEL利用研究推進室 主幹研究員)
    「光拡散フリー透明シンチレータを用いた近回折限界性能X線画像検出器の開発」

        

諏訪賞

    

      加古 永治(高エネルギー加速器研究機構 名誉教授)
       「超伝導高周波加速空洞の開発研究」

         

諏訪賞

    

      田中 万博(高エネルギー加速器研究機構 名誉教授・研究員)
       「大強度加速器施設のための耐放射線電磁石の開発」

     

選考理由一覧

小柴賞受賞者: 瀧田 正人(東京大学宇宙線研究所 教授)
        研究題目:「水チェレンコフミューオン検出器を応用した空気シャワー観測装置による サブPeVガンマ線天文学の開拓」
 
選考理由:
 宇宙線の起源の解明は現代物理学の重要な課題の一つである。その起源解明の手段として、加速された宇宙線が星間物質と衝突した際に放出される高エネルギーガンマ線、特に未開拓のサブPeV (0.1〜1 PeV) ガンマ線が注目されていた。 瀧田氏は、大面積の水槽からなる水チェレンコフの技術を用いた地下ミ ューオン検出器を空気シャワー観測装置「Tibet ASγ実験」に導入することで、宇宙線雑音を大幅に削減し、サブPeVガンマ線の世界初の検出に成功した。
 サブPeVガンマ線の観測には、ガンマ線信号の何桁も上の宇宙線雑音を落とす必要がある。 瀧田氏は、50 cm径の光電子増倍管を用いた低雑音かつ安価で大面積の地下ミューオン検出器を「Tibet ASγ実験」へ導入することで、極めて効率的に宇宙線雑音を排除できることを示した。この地下ミューオン検出器の提案には、瀧田氏のカミオカンデ実験、スーパーカミオカンデ実験で培った水チェレンコフ型検出器の経験が生きていた。さらに、この装置を使ったガンマ線エネルギー決定において、空気シャワー観測装置のエネルギー分解能を100 TeVで30 %から16 %に改善した。これらの改善により、点源のガンマ線天体に対して、100 TeVでガンマ線の検出効率90 %で、宇宙線雑音を約1000分の1に削減することに成功した。そして、世界で初めて100TeV 以上のガンマ線がかに星雲の方向から飛来していることを突き止めた。さらに、超新星残骸G106.3+2.7 からの100TeV を超えるガンマ線の観測と、既知のTeVガンマ線源と離れた銀河面に沿った400TeV 以上のガンマ線の観測に成功し、PeV エネルギー領域以下の宇宙線の加速源が銀河系内に存在する決定的な観測的証拠を世界で初めてとらえた。
 以上の物理成果を出す鍵となったのが、瀧田氏が提案して「Tibet ASγ実験」に導入した水チェレンコフ型地下ミューオン検出器である。よって、瀧田氏の業績は小柴賞に相応しいと判断された。


 

小柴賞受賞者: 亀島 敬(公益財団法人高輝度光科学研究センター XFEL利用研究推進室 主幹研究員)
         研究題目: 「光拡散フリー透明シンチレータを用いた近回折限界性能X線画像検出器の開発」
 
選考理由:
 放射光実験においてX線画像検出器は最も汎用的な測定装置の一つである。中でも、レンズ結像型X線画像検出器は高解像度X線像の検出用途に使用され、その解像性能はシステム空間分解能・視野を決める重要パラメータである。検出器の空間分解能はX線検出部であるシンチレータ内の欠陥から生じる光拡散により制限され、国内外で原理上の最大性能:回折限界を得られない状況であった。亀島敬氏は素材を薄くするなどして、光学ガラス級のシンチレータを組みこんだ検出器を開発し、近回折限界性能200 nm linc― and― spaceパターンの解像に成功した。加えて、検出器光学系のモデルの構築と最適化と多画素イメージセンサの実装を行い、従来の10倍近い広視野の獲得と検出感度の最大化に成功した。本システムをSPring-8/SACLAの利用実験に展開し、その高解像度X線データは先端的な成果の創出に貢献している。これらの研究成果は更なる発展と共に、国内外の放射光科学ならびに放射線測定器技術の分野への広く貢献する事が期待される。
 12月9日開催の選考委員会では、提出論文では性能評価やイメージングのデモンストレーションにとどまっているものの、その後実際に装置をSPring-8やSACLAのビームラインに組み込む準備が進み、ユーザーに開放される段階に至っていることが紹介された。また、イメージングの応用例についても議論された。さらに、今後回折限界を目指したさらなる取り組みに向かって亀島氏が努力していることも紹介された。
 本成果は、現段階で最高分解能を有する検出器を開発したという点で、世界をリードする成果であるとともに、今後SPring-8、SACLAでの応用利用にさらなる発展が期待できる成果である。  以上のことから亀島氏の本業績は小柴賞に相応しい判断された。



 

諏訪賞受賞者: 加古 永治(高エネルギー加速器研究機構 名誉教授)
        研究題目: 「超伝導高周波加速空洞の開発研究」
 
選考理由:
 候補者である加古氏は、KEKにおける超伝導高周波(SRF)加速空洞およびそれを用いた加速器の開発を長年にわたって主導するとともに、日本やアジア諸国のSRF空洞の開発計画に協力し、SRF技術の普及と後進の育成に尽力してきた。
 加古氏はまず、1990年代に当時のTESLA計画に関わり、1994年には単セルでの加速電界目標を達成した。さらに、空洞内面への電解研磨の有効性を確認し、電解研磨はその後、標準的な表面処理方法として確立した。2004年にSRF技術がリニアコライダー計画に採用されると、加古氏は超伝導高周波試験施設(STF)を活用した超伝導9セル空洞及び入力カプラーの研究開発に取り組んだ。2014年にはSTF-2加速器への合計14台の空洞及び入力カプラーの実装を中核となって進めた。これと並行して、2008年からはエネルギー回収型リニアック(ERL)試験施設であるcERLにおいて入射部空洞開発を行った。このように、加古氏はKEKにおけるSRF空洞とそれを用いた加速器の開発を牽引してきた。
 加古氏はまた、KEKでの技術開発実績に基づき、日本国内およびアジアでのSRF技術の促進にも注力した。QST六ヶ所研究所のIFMIF-LIPAc、理研RIビームファクトリーのSRILAC、韓国IBSのRISP計画へのSRF空洞の導入などにおいても、研究者の受け入れや試験施設での空洞評価など幅広い共同研究を行い、これらの計画の推進に貢献してきた。 2022年1月からは、国際的な研究者組織であるTESLA Technology Collaborationの議長に就任し、SRFに関する国際的な研究開発を促進している。
 以上のように、加古氏は長年にわたって加速器科学の発展に貢献するとともに、顕著な業績を上げており、諏訪賞の候補に相応しいと判断された。



 

諏訪賞受賞者: 田中 万博(高エネルギー加速器研究機構 名誉教授・研究員)
研究題目: 「大強度加速器施設のための耐放射線電磁石の開発」
 
選考理由:
 大強度陽子ビームを使いこなすためにはさまざまな技術開発が必要であり、二次粒子のそれぞれの利用分野でさまざまな技術開発が行われてきた。田中氏は、長年にわたって施設全体の建設・運営を主導すると共に、さまざまな機器の開発を行ってきたが、その中でも特に耐放射線電磁石の開発は多数のサイエンス分野へ大きな貢献をもたらしており特筆すべきである。
 田中氏は、電磁石のコイル絶縁にビスマレイミド・トリアジン樹脂を用いることで、それまでの10倍、約108 Gyの耐放射線性を実現し、さらに、製造技術の確立を図った。一方、Mineral Insulation Cable (MIC) を用いた電磁石開発を先導し、1011Gyまでの高い放射線環境にも対応が可能な電磁石を完成させた。
 これらの結果、田中氏が中心となって開発を進めた多数の電磁石は、PS北カウンターホール、K2Kニューリノビームライン、J-PARCの加速器、ハドロン実験施設、T2Kニュートリノビームライン、MLFのM2トンネルなどに適用され、大強度陽子ビームを使うさまざまなサイエンスに大きな貢献をしている。
 これらの研究開発は、田中氏の熱意と強力なリーダーシップでもって成し遂げられたものであり、氏の長きに渡る研究活動を通じて、多くの研究者や技術者を育成し、学会や産業界に輩出している。
 以上のように、田中氏は長年にわたって加速器科学の発展に貢献し、顕著な業績を上げており、諏訪賞の候補に相応しいと判断された。




 


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