高エネルギー加速器科学研究奨励会

褒賞 - 平成24年度選考結果

2013表彰式
平成25年2月18日に表彰式がアルカディア市ヶ谷にて開催されました。


西川賞

① 中村 剛氏(高輝度光科学研究センター)
  小林和生氏(高輝度光科学研究センター)
  「FPGAを用いた高機能 bunch-by-bunchフィードバックシステムの開発研究」

② 和田 健氏(高エネルギー加速器研究機構)
 「KEK低速陽電子ビームの強度増強とその応用に関する研究」

小柴賞

内田智久氏(高エネルギー加速器研究機構)
「ハードウェアベースの通信制御演算装置を用いた高速データ収集システムの開発研究」

熊谷賞

① 伊藤 進氏(元株式会社東芝)
 「超伝導磁石の開発をはじめとする加速器科学への開拓的貢献」

② 目黒信一郎氏(元古河電工株式会社)
 「超伝導材料の開発を中心とする加速器科学への開拓的貢献」

選考理由一覧

西川賞受賞者: 中村剛・小林和生
研究題目「FPGAを用いた高機能 bunch-by-bunchフィードバックシステムの開発」
 
選考理由:
電子蓄積リングを光源とする放射光は、物質科学、生命科学、工業への応用など幅広い分野で利用されている。とくにナノビーム、パルス特性の利用のためには、電子蓄積リングに高いビーム安定性と多彩なビームフィリングパターンが要求されており、挿入光源を多数含む第3世代光源では、それに対応する加速器技術の有無が光源加速器としての性能を決定付けている。中村、小林両氏は、FPGAと12ビットADCを用いて508MHzの高いバンチレートを持つSPring-8に適合する高分解能bunch-by-bunchフィードバックシステムを開発し、強いモード結合不安定性、マルチバンチ不安定性を制御することに成功してSPring-8の性能を大きく向上させた。 両氏が開発したシルテムは、従来用いられてきたDPSに較べて安価であるにもかかわらず、振動抑制精度がサブミクロンと高精度で、かつ多様なフィリングモードに対応できるなどの汎用性に優れた特長を持つ。この両氏の技術開発を契機にPF(2005-2009)、SOLEIL(仏)、PLS(韓国)、SSRF(中国)などの光源加速器にも同様のシステムが導入された。 また、その要素技術は、ESRF、APS、PF(2009に新システムに交換)などでも採用され放射光光源の性能向上にも大きく貢献している。
 

西川賞受賞者: 和田健
研究題目「KEK低速陽電子ビームの強度増強とその応用に関する研究」
 
選考理由:
加速器を用いる低速陽電子発生装置は、放射性同位元素から得られる陽電子と較べて強度が大きく、しかも安定して高輝度の陽電子ビームを放出することができると考えられることから、とくに物質科学研究用の陽電子源として注目されている。和田氏は、電子ビームから低速陽電子を生成するモデレータに薄膜2層井桁構造にタングステンの25μm極薄膜を採用するとともに、高温アニールを行って低速陽電子の生成効率を高め、従来よりも10倍以上の強度を持つ世界最高水準の低速陽電子ビームを得ることに短期間で成功した。その結果、KEK低速陽電子実験施設で初めてRHEPD実験を成功させ、陽電子ビームを利用した表面科学研究にブレークスルーをもたらした。和田氏の独創的なアイデアで得られた成果によって、陽電子ビームを用いる物質科学研究が今後大きく進展すると期待される。
 

小柴賞受賞者: 内田智久
研究題目「ハードウェアベースの通信制御演算装置を用いた高速データ収集システムの開発研究」
 
選考理由:
ますます高度化する加速器利用実験において、データ収集システム(DAQ)の高性能化は必然の課題である。しかもその測定の多様化を満たすため、システムの柔軟性と汎用性が極めて重要な要件となっている。 SiTCPと呼ばれる内田氏の開発した新しい高DAQは、測定器のフロントエンドと収集装置間の通信を、インターネットで利用されるプロトコール(TCP)で直接行う画期的なシステムである。これにより日進月歩の民生用ネットワーク機器を使って、複雑なDAQを柔軟に構成することが可能となる。氏の開発の独創的な点は、このTCPによる通信をCPUを介すことなくField Programmable Gate Array (FPGA)に独自のファームウェアを書き込むことで実現した点にあり、これにより測定器システムの末端にある多数の各ユニットが直接ネットワーク接続してデータ収集することが可能となった。内田氏が開発したこのSiTCPに基づくシステムは、すでにSuperKAMIOKANDEのような大型装置をはじめ、J-PARCの中性子実験あるいはスバル望遠鏡HyperSuprime-CamのCCDシステムなどでも実用され高い評価が確立しており、小柴賞受賞にふさわしい成果であると判断する。
 

熊谷賞受賞者:伊藤進
研究題目「超伝導磁石の開発をはじめとする加速器科学への開拓的貢献」
 
選考理由:
先端的粒子加速器は、様々な科学技術の成果と新規技術開発の結果を集約し建設され、物質の根源、物性の起源や機能等の解明に大きく貢献している。伊藤進氏(元・(株)東芝・京浜事業所技監)は、物作りの立場から、この加速器に関連した素材や加工に関する新規技術、超伝導を初めとした加速空洞や電磁石等要素機器の製作技術、および製作基盤設備の構築に尽力された。特に超伝導に関しては、加速器用超伝導磁石や粒子検出用超伝導ソレノイド等の大型機器の製作に関わる新規製作技術の開拓とその確立、および大型機器の実用化に向けた製造技術の確立に多大な貢献をされてきた。その尽力により、Fermilab-CDFやLHC-ATRASに代表される実験用大型超伝導ソレノイドや加速器用超伝導磁石を初めとする先端的加速器用機器の製作が可能となり、測定器および加速器の性能が飛躍的に向上した。平成24年7月、素粒子物理学最大の案件の一つであったヒッグスと考えられる粒子が、CERN-LHCで発見されが、伊藤進氏が先導し開拓した超伝導技術をもとに製作された収束用超伝導四極電磁石と粒子識別用超伝導ソレノイドが、この発見に大きく貢献した。また、これら開発過程で蓄積した超伝導技術を、MRIを初めとする医療や半導体製造装置等の産業利用の分野に展開することにも尽力し、社会全般の安全安心の構築にも大きく貢献している。以上、伊藤進氏は、超伝導を初めとする加速器要素機器製造技術の開発と、その技術の医療・産業等への応用に対して、物作りの立場から、長年に渡って尽力され、加速器および関連分野の発展に大きな貢献をされた。
 

熊谷賞候受賞者:目黒信一郎
研究題目「超伝導材料の開発を中心とする加速器科学への開拓的貢献」
 
選考理由:
CERN-LHCに代表される先端的大型加速器は、物質や力の根源を解明するために利用され多くの成果が生み出されている。特にハドロン加速器では可能限り高い加速エネルギーを得るために超伝導電磁石の利用が不可欠となっている。目黒信一郎氏(元・古河電工株式会社・研究開発本部、超電導開発部長)は、この超伝導磁石に使用するNbTiを初めとする各種超伝導線材の臨界電流密度の向上、性能の安定化、コストの削減等の実用化/工業化技術の開発に長年に渡って尽力され、高性能超伝導磁石用超伝導ケーブルの製造技術の確立に多大なる貢献をされた。また、目黒信一郎氏は、日本政府のCERN-LHC計画への予算的貢献を背景にして進められたLHC加速器用超伝導磁石・超伝導線/ケーブル製造に関し、我が国の製造責任者として計画を先導し、高品質超伝導磁石用ケーブルを供給、平成24年7月、CERN-LHCでのヒッグスと考えられる粒子の発見に大きく貢献した。さらに、開発された超伝導線材とケーブルの製造技術は、医療分野におけるMRI装置用超伝導磁石や半導体製造装置用超伝導ケーブル等の製造に活用され、社会全般に渡る安全・安心の構築にも大きく貢献している。以上、目黒信一郎氏は、もの作りの現場から、学術・産業・医療分野における基盤材料としての超伝導線材と超伝導ケーブルの製造技術の確立に尽力し、加速器および関連分野の発展に大きな貢献をされた。

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